問いと取り組んだこと
警察の記録に残る2019〜2025年の人身事故で、台東区の事故はいつ、どこで、誰が関わって起きているでしょうか。
事故の分析結果は、利用者によって必要な情報が違います。区の交通安全の担当者は対策の優先順位を、学校やPTAは通学路で事故の多い時間帯を必要とします。道路の安全診断では交差点の名前が、住民には自分の町丁の状況が必要です。そこで同じ4,517件を、次の観点で分析しました。
- 件数の推移を、23区全体を基準にした指数で比べる
- 事故の種類別の構成比が、23区の中で何位か
- 事故多発地点と、町丁別の道路延長あたりの事故率
- 曜日と時刻、当事者の組み合わせ、死亡事故
用語の定義
- 当事者A・当事者B: 警察の記録の区分で、当事者Aは過失の重い側 (第1当事者)、当事者Bはその相手である。当事者Aは被害者とは限らない。
- 生活道路: 車道幅員の区分が01・02・11の道路 (狭義)。14と17を加えたものを広義とした。
- 事故多発地点: 半径30mの円に入る7年分の件数が最も多い点を中心に選び、その円の事故を除いて次を選ぶ手順を15回くり返して得た15か所である。
- 町丁別の事故率: 町丁の事故件数を、OpenStreetMapの車道の延長と7年で割った値 (件/年/道路km) である。
生活道路の定義や事故多発地点の半径など、定義によって結果が変わる項目は、結果を見る前に計画で固定しました。代替の定義での結果も併記しています。
わかったこと
| # | 要点 | 数字 |
|---|---|---|
| 1 | 件数は2020年に大きく減り、2024年にほぼ元の水準に戻った。2019年より減少したとは言えない | 7年で4,517件、死者16人、負傷者4,959人。2019年を100とした指数は2020年に71.2、2025年に93.3 |
| 2 | 事故は幹線道路の交差点に集中し、生活道路の事故の構成比は低い | 交差点内の事故の構成比45.9% (23区中4位)、生活道路の事故14.5% (21位) |
| 3 | 事故多発地点は上野・御徒町に集中する | 事故多発地点15か所のうち10か所が上野・御徒町。事故率の上位5町丁のうち4つが上野 |
| 4 | 事故の46.9%に自転車が関わる | 当事者Aが乗用車または貨物車で、当事者Bが自転車の事故が1,176件 |
| 5 | 死亡事故は歩行者、夜明け前、貨物車に偏る | 死者16人のうち歩行者が11人 (65歳以上が6人)。0〜5時台が9件、当事者Aが貨物車の事故が9件 |
読み手ごとに知っておきたいこと
| 読み手 | 結論 | 検討する材料 |
|---|---|---|
| 区の交通安全担当 | 2026年9月1日から生活道路の法定速度は30km/hになるが、該当するのは事故の14.5〜25.6% (定義による)。件数の多くは上野・御徒町・浅草の幹線道路の交差点 | 幹線道路の交差点、早朝の貨物車と高齢の歩行者、自転車 |
| 学校とPTA | 24歳以下の歩行者と自転車の事故は415件。最も多いのは17時台で、朝より下校から夕方が多い | 学校の周辺で、平日14〜17時台の事故が連なる道路 |
| 道路の安全診断 | 上位は中央通り×春日通り (39件)、春日通り×昭和通り (39件)、江戸通り×蔵前橋通り (34件)。上位3か所で多い組み合わせは乗用車と二輪車 | 後半に増えた3位と5位、半径によって順位が入れ替わる上野・御徒町の地点 |
| 住民 | 事故率が高いのは上野二丁目 (8.36件/年/道路km)、上野四丁目 (8.28)。事故は8時台から18時台まで多く、17時台が最多 | 自分の町丁の事故率の階級、夜明け前に幹線道路を渡るとき、自転車の単独事故 |
読み手ごとの詳しい報告は、分析の原本にあります。
件数の推移
2020年の減少 (指数71.2) は、23区全体 (83.7) より大きくなりました。2025年の件数のPoisson 95%信頼区間 (617〜720件) は、2019年 (664〜769件) と重なります。このため、2019年より減少したとは判断していません。
23区の中の台東区
赤い点が台東区です。交差点内の事故 (4位) と高齢の歩行者の事故 (4.9%、4位) の構成比が高く、生活道路の事故 (21位) と24歳以下の歩行者・自転車の事故 (9.2%、19位) の構成比が低くなっています。住民千人あたりの件数 (3.05件/年、4位) は、昼間人口を考慮しない参考値です。
事故多発地点
図の出典: 警察庁ウェブサイトの交通事故統計情報のオープンデータ(2019〜2025年)を加工して作成。背景はOpenStreetMap(© OpenStreetMap contributors、2026-08-31)と2020年国勢調査の小地域境界。データの版と再現手順。
事故多発地点15か所の件数は21〜39件です。番号は順位で、上野・御徒町の10か所は右の拡大図に番号を書いています。
| 順位 | 最寄りの交差点 (OSM) | 町丁 | 件数 | 前半 件/年 | 後半 件/年 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 中央通り×春日通り | 上野二丁目 | 39 | 5.00 | 6.00 |
| 2 | 春日通り×昭和通り | 東上野一丁目 | 39 | 8.33 | 3.50 |
| 3 | 江戸通り×蔵前橋通り | 蔵前一丁目 | 34 | 3.67 | 5.75 |
| 4 | 言問通り×入谷口通り | 下谷二丁目 | 30 | 3.67 | 4.75 |
| 5 | 明治通り×昭和通り | 三ノ輪一丁目 | 30 | 2.67 | 5.50 |
前半は2019〜2021年、後半は2022〜2025年です。半径を20mにすると15か所のうち12か所が、50mにすると9か所が残ります。6〜15位はhotspots.csvにあります。
町丁別の事故率
紫の枠は事故率の上位5町丁です。上野二丁目・上野四丁目・秋葉原・上野七丁目・上野六丁目が入ります。階級区分を分位から等間隔に変えると、78%の町丁の階級が変わります。隣り合う階級の差は解釈しないでください。道路延長は交通量の代わりにはなりません。
発生時刻
全体では、平日の8〜18時台に広く多くなっています。24歳以下の歩行者と自転車の事故は15〜18時台に集中し、最多は17時台 (45件) です。
自転車の事故は9時台 (172件) と12時台 (171件)、高齢の歩行者の事故は15時台 (24件) が最多でした。
当事者の組み合わせ
最も多いのは、当事者Aが自家用の乗用車で当事者Bが自転車の事故で、521件でした。次いで多いのは、貨物車と自転車の組み合わせ (376件) と、自転車の単独事故 (相手なし・物件、326件) です。
死亡事故
| 死者の当事者種別 | 人数 | 内訳 |
|---|---|---|
| 歩行者 | 11 | 65歳以上が6人 |
| 二輪車 | 3 | |
| 自転車 | 2 |
16件のうち0〜5時台が9件、当事者Aが貨物車の事故が9件です。件数が少ないため、傾向とは断定していません。全件はdeaths.csvにあります。
定義と感度分析
定義によって結果が変わる項目を、次の表にまとめました。
| 項目 | 主分析 | 代替の定義 |
|---|---|---|
| 台東区の事故の範囲 | 記録の市区町村コードが台東区の4,517件 | 座標が区の範囲に入る事故。両方に該当するのは4,464件 |
| 生活道路 | 狭義14.5% (21位) | 広義25.6% (20位) |
| 事故多発地点の半径 | 30m | 20mで12か所、50mで9か所が残る |
| 町丁の階級区分 | 分位による5階級 | 等間隔にすると78%の町丁の階級が変わる |
歩行者や自転車が関わる事故かどうかは、当事者Aと当事者Bの両方で判定し、1件を1回だけ数えています。距離はEPSG:6677 (メートル) で測りました。件数の推移は23区全体を基準とし、年ごとの件数にPoisson分布による95%信頼区間を付けました。予測や回帰分析はしていません。
データ
- 人身事故: 警察庁「交通事故統計情報のオープンデータ」を加工した
yuiseki/npa-traffic-accidents版389500a(配布元の取得は2026-10-02) の本票。年は統計に計上された年。台東区は4,517件、23区は144,716件で、座標の欠けた行は無い。物損事故は含まない。 - 区の範囲と人口:
yuiseki/jp-admin-2026-09版e6c87b1。 - 町丁: 2020年国勢調査の小地域。108町丁、211,444人 (
yuiseki/estat-boundary-2020版823195c)。 - 学校28校と道路: OpenStreetMap 2026-08-31 (
yuiseki/osm-tokyo23-src-2026-08版38f7a5f)。
限界
交通量、昼間人口、観光客数で正規化していません。上野・御徒町の件数の多さは、歩行者と車両の多さを反映しているだけの可能性があります。
記録された座標の精度は分かりません。事故多発地点の円や町丁の境界の近くの事故は、数十メートルの誤差で所属が入れ替わります。事故類型 (出会い頭や追突)、重傷と軽傷の区別、物損事故、ヒヤリハットはこのデータにありません。年齢は24歳以下より細かく区分されていないため、小学生だけは集計できません。
事故多発地点は7年の件数で選び、同じ7年で前半と後半を比べています。そのため、後半の件数は下がって見えやすくなります (平均への回帰)。対策の効果は推定していません。